人を好きになるということ

僕が好きになった男の人のことを書きます

フユ

僕の遅い初恋はカラオケボックスでやってくる。僕は渋谷で男の人と初めて「リアル」した。ビッグエコーでカラオケだ。少し歌った後「キスしていい?」って突然言われ、僕のファーストキスはあっという間に奪われた。舌を絡ませる快感は生まれて初めてで、頭が真っ白になった。世界の色が変わり、僕は堕ちた。衝撃だった。その瞬間からその人を好きになっていた。「ファーストキスだったの?コーヒーの味でごめんね」と遠く聞こえる。それから一週間はキスの感触を思い出すだけで全身が火照り、何も考えられなくなった。僕は自分が変わってしまったのが怖かった。でも、ずっとずっと忘れられなかった。自分を慰めた後はため息しかでなかった。


アメリカではバーにカラオケはあるけど、日本にあるようなカラオケボックスみたいなものはないと僕は習っていた。でもグローバル化が進んだ現在ではそれは正しくなくて、大都市にはカラオケボックスがちゃんとある。アジア人が多い地域なら確実だ。サンフランシスコにもある。それでも数はそれほど多いわけじゃないから、DAMの最新機種が入ってるというのは結構珍しい。そんなわけで、4人めの男の子、フユくんとはカラオケでデートすることになった。フユくんはもともとカラオケが好きなんだけどアメリカに来てからは初めてということで楽しみにしてくれたんだと思う。


フユくんはサラサラの黒髪、一重のカッコ可愛い少年系だ。写真では可愛い蝶ネクタイをしていたはずだ。僕とリアルしたときは黒いYシャツから少し肌を見せているのがエロい。フユくんもスキニージーンズだった。


カラオケボックスでは適当にJPOPなんかを歌って、僕は彼を電車の駅まで送ることになる。僕はここで別れたくなかった。正直言って部屋に来てほしかった。でもその頃の僕は慎重だったし、男の子を部屋に誘うってどうやったらいいかわからなかった。とにかく離れたくなくて助手席に座る彼の手をぎゅっと握った。僕の部屋来ない?今日は遅いからまた今度。僕は苦しかった。キスしていい?うん。僕たちは路肩に車を止めてキスした。徐々に舌も絡ませてくれた。僕は幸せだった。


急に後ろからクラクションがなる。現実に引き戻されて、ここって一時駐車駄目だったんだっけ?僕は、高鳴る心臓とぼんやりする頭で運転を再開する。これはとても危険だ。フユくんを早く駅に送り届けて心と体を覚まさないと。僕はフユくんと駅で別れた後、放心してしばらくハンドルを握れなかった。その時は「また今度」が訪れないとは考えてもいなかった。僕の好きという気持ちはどんどん大きくなるだけだった。初恋のときから何も成長してないのだ。


それから半年以上経って、僕はフユくんともう一回だけ会った。フユくんと僕には共通の友達がいて、彼がサンフランシスコを訪れるから一緒に会おうということになったのだ。その共通の友達がパスタが好きだったからリトル・イタリーでランチをしたはずだ。フユくんは朝帰りでとても眠そうにしていた。話によるとレオンのところに泊まっていたらしい。レオンというのは1人めのハルくんを浮気した元彼のレオンその人だ。「世界の絶対的な仕組み」とはそういうものなのだ。僕がフユくんと会った頃から付き合っていたらしい。


フユくんは僕とキスしたときに何を思っていたんだろう?


この疑問は修辞的でなくて答えがちゃんとある。その共通の友達がフユくんから直接聞き出してくれたのだ。「キスくらいで帰してくれるなら、まあね」って。フユくんは僕よりずっと大人だった。