人を好きになるということ

僕が好きになった男の人のことを書きます

アキ

光と陰の街、ニューヨークに行く機会があったら是非ブロードウェイでミュージカルを観てほしい。ミュージカルという芸術の形式は集客力のキャパから根本的に「儲からない」ものだ。そうでありながら、産業として成功し、世界中の若者が夢見る舞台がブロードウェイ。それが存在できるのは世界でニューヨークにしかない。観るたびに人の才能って素晴らしいものだと思う。


僕が好きになった3人めの男の子の話をしよう。アキくんだ。


アキくんは企業の研修で渡米、郊外の寮に住んでいた。僕がミュージカルに興味を持ったのはアキくんの影響だ。アキくんは日本にいた頃からミュージカル好きで、特に「Rent」 が大のお気に入りだった。Rent は同性愛も異性愛も超えた愛(と生死)の物語で、僕も Rent の大ファンである。ちなみにこの大傑作を一人で作り上げた作者は初演日の直前に悲劇的になくなった。って、こんなにも彼の趣味に染まったということは、僕自身がアキくんのことをとても好きだったに違いない。彼とどういうきっかけで出会ったのかはっきり覚えてないけれど(きっとまたどうしようもない話だ)。好きでもなかったら往復3時間以上かけてアキくんをエスコートし、一緒にサンフランシスコの劇場でミュージカルを観たりはしない。誕生日プレゼントという口実で彼が観たいと言ってたミュージカルのチケットを渡したこともある。


ただここで残念なお知らせがある。アキくんは前髪系が嫌いで短髪が好きなのだ。アキくん自身も短髪黒髪だ。Rent の役者の中で誰がカッコいいか?というのも全く別の人を指すのも面白かった。いや、面白くない。僕はできるだけアキくんに会う前に髪の毛を切ったけど、それでももっと短くしたほうがいいですよといつも言われた。これはなかなか妥協できなかった。


それでも、アキくんは僕の部屋に3回は泊まったはずだ。初めての夜、僕たちは Rent の DVD を見ながら気持ちが抑えられなくなってキスをした。あるときはサンフランシスコの劇場でミュージカルを観て、カストロのクラブにも行って(そう、おなじみの Badlands だ)、もう遅いし霧が真っ白で運転できないよ、と言って僕の部屋に泊まらせたこともある。これは良くなかったなと思う。きっと次の日は寮で大変だったはずだ。だいたい霧で運転できなかったらサンフランシスコで生きていけない。


彼はしらなかったはずと信じたいけど、僕はアキくんで童貞を失った。でも、もしかしたらちゃんとバレてたかもしれない。僕は初めてのとき、興奮しすぎて挿入する前に射精してしまったのだ。コンドームをつけて挿入する前にあともう少し刺激をと思った瞬間だ。ごめん。アキくんは嬉しいって言ってくれた。そのときに限らず僕はアキくんを射精まで導いたことがない。彼は僕が気持ちよくなってくれればそれで満足だといつも言ってたけど、それは本心なのだろうか?僕にはわからなかった。僕自身は射精しないと満足できない。


それ以来、Rent の映像を観るとアキくんとのあの夜を思い出すのだ。自分のことをコントロールできなかったあの夜のことを。アキくんはどうだったのだろう?僕の部屋に泊まるたびにあの Rent の DVD が観たいと言ったのはどういう気持ちだったのだろう?どうせ僕たちは最後まで観終わることはないのに。