人を好きになるということ

僕が好きになった男の人のことを書きます

ナツ

外国で髪を切るのは博打に近いと言われる。日本語でも難しいのに英語で髪の毛の切り方を指定するのは僕には無理だ。だけど、サンフランシスコだったらジャパンタウンで切れば、まあ無難に収まる。日本人の美容師さんたちが日本と全く同じように髪を切ってくれる。もちろん日本語で注文してもいいけど、適当にお任せすると原宿とかで流行ってる最新カットにしてくれるらしい。僕は初めて切ってもらったときけっこう感動した。そのジャパンタウンの美容院とは直接関係ないけれど、僕は美容院においてあるヘアスタイルの雑誌を見るといつも思うのが、ショートって言うけど全然短くなくない?ってこと。ショートヘアって前髪系だよね。


今日は2人め、ショートヘアのナツくんの話だ。ナツくんはヘアモデルをやっていて、ジャパンタウンの美容院でも彼の写真をすぐ見つけることができた。と言うか、要するに日本で普通に売ってるヘアスタイルの見本雑誌の表紙を飾っている超絶可愛い子ということである。この子、僕の友達でサンフランシスコに住んでるんですよって、美容院で自慢してみたりした。例によって僕が彼とどういうきっかけで出会ったのかはっきり覚えてないけど(きっとどうしようもない話だ)、ナツくんはいつも明るく元気で、みんなの人気者であったことは間違いない。日本からナツくんにベタぼれな年上の子を連れてきて、前回も紹介したカストロの Badlands で横に「はべらしていた」のを見たこともある。その子はナツくんにメロメロになっていた。(そして後でナツくんはその年上の子に対してtopになったと聞いた)。でも、ナツくんには全然嫌味なところは感じられない。


僕は一度だけナツくんの部屋に泊まったことがある。彼がこれまで同棲していた部屋からシングルになって引っ越しをするということで、IKEAで家具とか買って新しい部屋に届けて、それを組み立てるのを手伝ったんだ。IKEAの家具って簡単そうに見えて組み立てるのは大変なんだよね。これが楽々できるのは相当マスキュリン(男性的)だ。やっと組み立て終わって、夜遅くなったので(その日はクラブには行かなかったはずだ)、泊まってよってことで僕はナツ君の部屋に泊まった。ナツ君は僕にパジャマを貸してくれた。


ここには書けないけれど、ナツくんには親しい友人として、後日仕事上で大変お世話になったことがある。僕はとても感謝している。


お互いサンフランシスコを離れてからは、僕たちが会う機会はずっとなかった。でも、その後、僕は一度だけナツくんに偶然出会うことになる。それも僕たちにはなんの共通の接点もないはずのLAのコリアンタウンで。僕は旅行中だった。こんなことが小説で起こったらありえないと醒めて本を投げ出すと思う。でも、そんな必然性のないことが起こるのが人生だ。僕にはこの世界の本当の大きさがわからない。


LA(ロサンゼルスのことだ)とサンフランシスコは東京・大阪くらい離れている。LAには世界最大のコリアンタウンがあり、10万人以上の韓国人が住んでいる。そこには韓国本土同様に、チムジルバンと呼ばれるサウナがいくつもある。雰囲気的には日本のスーパー銭湯を想像してもらえればいいと思う。ただし、ファミリーが集まる完全に健全なものから怪しめの雰囲気のものもある。まあ、同じことは日本のスーパー銭湯や韓国本土のチムジルバンでも同様だから別段おかしくはない。なんで、こんな話を僕がしているかと言うと、そこでナツくんと再開したのだ。


僕がナツくんと再会したのはコリアンタウンにあるファミリー向けの健全なチムジルバンだった。もちろん男女別浴のゾーンもあるけど、僕たちがばったり会ったのは男女が着衣で入れる混浴サウナのゾーンだ。彼はLAで休暇中で、ゆるい体型の男の子の友達と一緒だった。もっと可愛い子と来たらいいのにと思わずつぶやいてしまったことは申し訳ない。きっと本当に普通の友達だったのだろう。そういうわけで、僕はナツくんのきれいな体を見ることに成功したのだ。働いているナツくんの髪は幾分短くなっていた。でも、今になって思うのは、もっと怪しげなサウナで会うことになってたらどうなっていたのだろう?って。ナツ君は僕にもtopになったのかな?なんてふと考える。